主婦に多い3つの慢性疾患――原因から症状、対処法まで
家事には、決まった退勤時間がありません。
朝の食器洗いから洗濯、掃除、育児、買い物まで、一日中手や体を動かしているのに、自分の体が発するサインは後回しにしがちです。
指先の皮膚がひび割れたり、手首がうずいたり、脚がひどくむくんだりしても、単に「家事をしすぎたせいだろう」と見過ごしてしまう人は少なくありません。
しかし、医療分野の専門家の視点から見ると、こうした症状は決して偶然ではありません。
手が水や洗剤に繰り返しさらされ、手首や指を休みなく動かし、長時間立ったまま作業する生活パターンが、特定の疾患につながっているのです。
今回は、主婦に多く見られる3つの慢性疾患――主婦湿疹、手首の腱鞘炎(ド・ケルバン病)、下肢静脈瘤について、原因や症状、具体的な治療・緩和法を中心に解説します。

1. 主婦湿疹(手湿疹)
原因
主婦湿疹は、手が水や洗剤に頻繁に触れることで起こる湿疹で、主婦に多い職業病ともいわれています。
水や洗剤などの刺激物が皮膚の角質層に繰り返しダメージを与えることで、皮膚のバリア機能が低下し、湿疹が生じやすくなるのが基本的なメカニズムです。
空気が乾燥した環境も、手湿疹のリスク要因の一つです。実際、手湿疹は職業性皮膚炎の80%以上を占めるほど一般的な原因であり、水分の多い環境にさらされる職業ほど発症率が高くなります。
結婚や出産を機に家事の時間が増える主婦に特に多く見られますが、料理人や鮮魚店の従業員、美容師、医療従事者など、手が水や洗剤に触れる機会の多い職業でも発症します。
アトピー性皮膚炎の既往がある人は発症しやすく、ニッケルや香料、ゴム製品との接触によるアレルギー性接触皮膚炎を伴うこともあります。
症状
初期には、指先の皮膚が薄くなって赤い斑点が現れ、皮膚を守る角質層がはがれてきます。進行すると皮膚がひび割れ、水ぶくれや滲出液を伴い、手の甲にまで広がることがあります。
ひび割れが大きくなると、強いしみるような痛みを感じることがあり、かゆみを伴うケースも少なくありません。通常は両手に現れますが、普段よく使う側の手に、より強く症状が出ることが多いのも特徴です。
治療と対処法
軽度の主婦湿疹であれば、ハンドクリームやワセリンなどの保湿剤だけで症状が改善することもあります。
保湿剤で改善しない場合は、ステロイド軟膏やクリームが一般的に使われます。水ぶくれができたり、滲出液が出たりする場合には、冷湿布が有効です。
ただし、手のひらの皮膚は比較的厚いため、作用の弱いステロイド軟膏では効果が出にくいことがあります。また、ひび割れた部分から細菌などに感染すると、症状が悪化するおそれもあるため、皮膚科を受診し、自分の状態に合った処方を受けることが大切です。
予防のためには、食器洗いや洗濯をするときに素手で作業せず、乾いた綿の手袋を着け、その上からゴム手袋を重ねると効果的です。
このとき、綿の手袋は複数枚用意し、常に手を乾いた状態に保つことがポイントです。ビニール手袋は汗がこもりやすく、かえって皮膚をふやけさせることがあるため、あまりおすすめできません。
手はできるだけぬるま湯で洗い、洗った後は水分を完全に拭き取ってから、すぐに保湿クリームを塗る習慣をつけましょう。
症状が治まらず、滲出液が出続けたり、感染の兆候が見られたりする場合は、慢性皮膚炎へと悪化するおそれがあるため、必ず医療機関を受診してください。

2. 手首の腱鞘炎(ド・ケルバン病)
原因
手首の腱鞘炎は、手首から親指につながる2本の腱と、その腱を包む腱鞘との間に摩擦が生じることで起こる炎症性疾患です。
一般にド・ケルバン病とも呼ばれます。
手首や親指を過度に繰り返し使うことが主な原因で、育児や家事を担う主婦のほか、パソコンを使う時間が長い会社員にも多く見られます。
特に、子どもを抱いたりあやしたりする動作や、手首を繰り返しひねる、物を握るといった家事の動きが、腱に継続的な負担をかけます。
男性より女性に多く、出産直後の女性や妊婦にも起こりやすい疾患です。妊娠・出産期のホルモン変化によって関節や靭帯が緩むことが関係していると考えられています。
症状
親指や手首の腫れ、痛み、しびれなどが代表的な症状です。
親指側の手首にある腱の部分を押すと痛みを感じ、手首を動かしたり、親指を曲げたりすると痛みが強くなるのが特徴です。
簡単なセルフチェックとして、親指を残りの指で包むように握ってこぶしを作り、そのまま手首を小指側へ曲げたときに痛みがあるかを確認する方法があります。この動作で痛みがあれば、手首の腱鞘炎が疑われます。
治療と対処法
症状の初期には、薬物療法、サポーターや副木による固定、体外衝撃波治療、注射治療などを試します。これらの方法で効果が得られない場合は、手術を検討します。
基本的には、安静と生活習慣の見直しに加え、薬物療法や理学療法、運動療法を組み合わせることで改善が期待できます。保存療法で改善しない場合は、靭帯強化注射や局所ステロイド注射、体外衝撃波治療などを追加で検討します。
熱感がなく軽い痛みだけであれば温湿布が、熱感や腫れを伴う場合は15~20分程度の冷湿布が役立ちます。
予防で最も大切なのは、手首を無理に使わないことです。過度な家事や、子どもを長時間抱く姿勢、スマートフォンを長時間使う習慣はできるだけ控えましょう。どうしても手首を使い続けなければならない場合は、途中で手首や指を休ませることが必要です。
すでに痛みが強い場合は、親指と手首をまっすぐに固定するサポーターを着けるのも有効です。

3. 下肢静脈瘤
原因
下肢静脈瘤は、脚の静脈にある弁の機能が低下し、血液が逆流することで静脈が伸びたり膨らんだりする疾患です。
長時間立ち続けたり座り続けたりする姿勢は、脚の静脈内に血液を滞留させ、症状を悪化させる代表的な要因です。
家事では料理や食器洗い、アイロンがけなど立ったまま行う作業が多く、育児中には子どもを抱いて長時間立つことも多いため、主婦に特に起こりやすいといえます。
妊娠や出産も下肢静脈瘤の代表的なリスク要因です。妊娠中に大きくなった子宮が骨盤内の静脈を圧迫し、ホルモン変化によって静脈壁が緩むことで、新たに静脈瘤ができたり、症状が悪化したりすることがあります。
ただし、妊娠中に生じた下肢静脈瘤は、出産後2~3週間ほどでかなり落ち着く傾向があります。
症状
最も目立つ症状は、脚にミミズのように浮き出た静脈が現れることです。
初期には細い血管が糸のようにうっすら見える程度ですが、進行すると静脈が浮き上がり、見た目にもはっきりした変化が現れます。重症化すると、脚のむくみや皮膚の変色、潰瘍などを伴うこともあります。
脚のしびれや痛み、むくみは、立ったり座ったりする時間が長くなるほど強くなる傾向があります。美容上の問題だけでなく、日常生活にも支障をきたすことがあるため、放置しないことが大切です。
治療と対処法
正確に診断するには、血管外科の専門医による診察を受け、ドプラ超音波検査で静脈の状態や血液の逆流の有無を確認する必要があります。
初期段階であれば、生活習慣を見直すだけでも症状を和らげられます。弾性ストッキングを着用することが基本的な治療で、これだけで症状が改善する場合もあります。また、ほかの処置を受けた後にも補助的に使用されます。
横になるときは、脚を心臓より約15センチ高く保つと、むくみの軽減に役立ちます。脚の疲れが特に強いときは、壁に脚を立てかけて高くする姿勢も効果的です。
立ち仕事が多い場合は、1日に数回、横になって5~10分ほど脚を上げる時間をつくるとよいでしょう。
ウォーキングやスポーツダンス、ゴルフ、自転車などの運動は、脚の静脈の血流を促し、症状の緩和に役立ちます。
症状が強い場合や、見た目の改善を希望する場合は、硬化療法やレーザー・高周波による静脈閉塞術などの処置を検討できます。これらは多くの場合、外来通院または短期入院で受けられます。
ただし、下肢静脈瘤は処置によって個々の病変を取り除くことはできても、根本的に完全治癒するとは限りません。処置後も、長時間立ち続けたり座り続けたりすることを避けるなど、生活習慣の管理を続ける必要があります。
3つの疾患に共通する、体からのサイン
主婦湿疹も、手首の腱鞘炎も、下肢静脈瘤も、共通しているのは「休むことなく繰り返される家事」が背景にあるという点です。
手が乾く暇もないほど水に触れ、手首や指を一日中動かし、長時間立って作業する生活パターンが、体の特定の部位に少しずつ負担を蓄積させていくのです。
そのため、それぞれの疾患に応じたケアも大切ですが、より根本的な対策は、1日の中で短時間でも手や手首、脚を休ませる時間を意識的につくることです。
小さな痛みやかゆみを「誰でもこのくらいは経験するもの」と片づけるのではなく、体からのサインとして受け止め、早い段階からケアするほうが、少ない時間と費用で健康を守れます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 主婦湿疹はゴム手袋を着けるだけで予防できますか?
ゴム手袋の着用は大きな助けになりますが、それだけで十分とは限りません。ゴム手袋の中に汗がこもると、かえって皮膚がふやけることがあります。そのため、必ず乾いた綿の手袋を先に着け、その上からゴム手袋を着用しましょう。綿の手袋は複数枚用意し、常に乾いた状態を保つことがポイントです。さらに、手を洗ったらすぐに保湿クリームを塗る習慣を加えると、予防効果がより高まります。
Q2. 手首の腱鞘炎は湿布や温冷療法だけで治りますか?
症状がごく軽い初期段階であれば、温湿布や冷湿布、手首を休ませることで改善が期待できる場合があります。しかし、すでに炎症がかなり進んでいる場合は、温冷療法やストレッチだけでは症状が和らがないこともあります。痛みを繰り返したり、親指を動かしにくかったりする場合は、整形外科で正確な診断を受け、必要に応じて注射治療やサポーターの使用を併用するとよいでしょう。
Q3. 下肢静脈瘤は弾性ストッキングを履けば完治しますか?
弾性ストッキングは症状を和らげ、悪化を遅らせる基本的なケアとして有効ですが、すでにできている下肢静脈瘤を根本的に消すことはできません。静脈瘤そのものを取り除くには、硬化療法やレーザー・高周波による処置などの医療的な治療が必要です。こうした処置を受けた後も、弾性ストッキングの着用や生活習慣の管理を続けることが、再発予防に役立ちます。
Q4. 3つの疾患はいずれも妊娠・出産と関係があるそうですが、特に注意すべき時期はありますか?
その通りです。出産直後は、3つの疾患すべてに注意が必要な時期です。子どもを頻繁に抱いたり、授乳したりすることで手首を多く使うため、手首の腱鞘炎が起こりやすくなります。また、育児の初期は手を水に入れる機会も多く、主婦湿疹もよく見られます。さらに、妊娠中のホルモン変化や静脈への圧迫によって生じた下肢静脈瘤が、出産後も残ることがあります。この時期は、普段以上に手や手首、脚のケアを心がけるとよいでしょう。
Q5. 3つの疾患を同時に予防できる習慣はありますか?
家事の合間に、意識して短い休憩を入れることが最も効果的です。水を使う作業の後は手の水分をすぐに拭き取って保湿剤を塗ること、手首を繰り返し動かしたら途中で手首をほぐすこと、立ち仕事の合間に少し座ったり脚を上げたりすること。この3つの短い習慣を日常に取り入れるだけでも、3つの疾患のリスクを同時に減らせます。