がんの中でも膵臓がんが特に危険な理由と、予防につながる生活習慣

膵臓がんは、罹患率だけを見ると上位に入るがんではありません。しかし、死亡率では常に最上位に位置するがんの一つです。
米国国立がん研究所関連の資料によると、2026年の1年間に米国だけで約6万7,530人が膵臓がんと新たに診断され、そのうち5万2,740人がこの病気で亡くなると推定されています。
新たに診断される人の数と死亡者数の差がほとんどないことからも、膵臓がんの深刻さがよく分かります。
今回は、膵臓がんがなぜ特に命に関わりやすいのか、そして予防のためにどのような生活習慣や食生活に気をつけるべきなのか、資料をもとに整理します。
1. 膵臓がんは、なぜがんの中でも特に危険なのか
膵臓がんの5年生存率は、がん全体で見ても約13%にとどまり、主ながんの中で最も低い水準です。イェール大学医学部をはじめとする複数の機関は、膵臓がんが特に命に関わりやすい理由として、次の点を挙げています。
①「沈黙の臓器」と呼ばれるほど初期症状が乏しい 膵臓は体の奥深くにあるため、初期に腫瘍ができても、目立った症状が現れないことが少なくありません。
腹部の不快感、体重減少、背中に放散する痛みなどは、病気がかなり進行してから現れることが多く、腫瘍が胆管を圧迫して黄疸が生じた場合に、比較的早い段階で見つかることもあります。
②効果的なスクリーニング検査が確立されていない 乳がんのマンモグラフィーや大腸がんの大腸内視鏡検査のように、一般の人を対象とした標準的なスクリーニング検査は、まだ確立されていません。
そのため、多くの場合、症状が出てから検査を受けることになります。しかし、その時点ですでに病気が進行しているケースが少なくありません。
③診断時には、すでに手術が難しいケースが多い 患者全体のうち、手術が可能な初期段階で発見される割合は約15~20%にすぎません。残る大半は、診断時点ですでに局所進行がん、またはほかの臓器に転移した状態です。
手術が可能な初期段階で見つかった場合、5年生存率は40%台まで上がります。一方、ステージ4(転移性)と診断された場合は、5年生存率が約3%まで急激に低下します。
④がんそのものの生物学的特性が攻撃的 膵臓がんは、KRASやTP53など複数の遺伝子変異が蓄積することで発生します。また、腫瘍の周囲に厚い線維性組織(間質、ストローマ)が形成され、抗がん剤が腫瘍の内部まで届きにくくなるという特徴があります。
このため、ほかのがんに比べて抗がん剤治療への反応率が低く、治療抵抗性も高い傾向があります。
こうした要因が重なり、ここ数十年でほかのがんの生存率が着実に改善してきた一方、膵臓がんの生存率は大きく向上していません。
ただし最近は、KRAS阻害薬などの分子標的治療薬を使った臨床試験で前向きな結果が出ており、早期発見とともに新たな治療法への期待も高まっています。

2. 膵臓がんの危険因子――変えられるもの、変えられないもの
米国がん協会(ACS)は、膵臓がんの危険因子を大きく「変えられる要因」と「変えられない要因」に分けています。
変えられない要因
変えられる(生活習慣)要因
- 喫煙:膵臓がんの最も重要な危険因子で、膵臓がん全体の約25%が喫煙に関連すると推定されています。喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが約2倍高く、禁煙後は時間の経過とともにリスクが徐々に低下します。
- 肥満:体格指数(BMI)が30以上の場合、発症リスクは約20%高くなります。特に腹部肥満(内臓脂肪)は、体重全体とは別にリスクを高める要因とされています。
- 過度の飲酒:慢性的な過度の飲酒は慢性膵炎につながることがあり、それが膵臓がんの危険因子になる可能性があります。
- 運動不足:定期的な身体活動は、体重管理やインスリン感受性の改善に役立ち、間接的にリスクを下げるとされています。
- 職業上の化学物質への曝露:ドライクリーニングや金属加工業で使用される特定の化学物質に長期間さらされることも、危険因子として挙げられています。
3. 予防につながる生活習慣
完全に予防する方法はありませんが、研究によると、膵臓がんの約4分の1は生活習慣の改善によってリスクを下げられると推定されています。ここでは、複数のがん関連機関が共通して勧めている生活習慣を紹介します。
①禁煙し、あらゆる種類のたばこ製品をやめる 紙巻きたばこだけでなく、葉巻や無煙たばこ製品(かみたばこなど)もリスクを高める可能性があります。現在喫煙している人にとって、禁煙は最も確実なリスク低減策です。
②健康的な体重を維持する 標準的な体重の範囲を保ち、特に腹部に脂肪が蓄積しないよう管理することが役立ちます。
③定期的に体を動かす 継続的な有酸素運動と筋力トレーニングは、体重管理だけでなく、インスリン抵抗性の改善にも役立ちます。
④飲酒量を抑える 女性は1日1杯、男性は1日2杯以内に飲酒量を抑えるか、まったく飲まないことが勧められています。
⑤糖尿病を管理する すでに糖尿病がある場合は、血糖値を適切に管理することが、膵臓の健康を守るうえでも重要です。

4. 予防に役立つ食生活
米国がん協会は、特定の「スーパーフード」ではなく、食事全体のパターンを重視しています。
勧められる食生活
- 野菜や果物を種類豊富に、十分な量を食べる
- 玄米、オート麦、全粒粉などの全粒穀物を中心に炭水化物をとる
- 赤身肉や加工肉(ソーセージ、ベーコン、ハムなど)の摂取を減らす
- 砂糖入り飲料や高度に加工された食品を減らす
注意したい食生活
- 揚げ物や赤身肉を過剰に食べる食習慣は、複数の研究でリスクの上昇と関連することが示されています。
- 砂糖入り飲料や精製された炭水化物が中心の食事は、肥満やインスリン抵抗性、2型糖尿病につながる可能性があり、間接的にリスクを高めることがあります。
- ただし、特定の食品一つが膵臓がんを直接引き起こしたり、予防したりするという確定的な根拠はまだ不足しています。バランスの取れた食事全体のパターンを保つことが重要です。
5. このような症状があれば受診を検討してください
膵臓がんは初期症状がほとんどありません。しかし、次のような症状がはっきり現れたり、長く続いたりする場合は、医療機関を受診することをお勧めします。
- 原因の分からない体重減少
- 上腹部や背中に放散する持続的な痛み
- 皮膚や白目が黄色くなる黄疸、尿の色が濃くなる、便の色が薄くなる
- 突然発症した、またはコントロールが難しくなった糖尿病
- 食欲不振や消化不良が長く続く
これらの症状は、膵臓がん以外の原因で起こる可能性も十分にあります。ただ、症状が続いたり、複数の症状が同時に現れたりした場合は、自己判断で済ませず、医療機関に相談するほうが安全です。
特に家族歴がある人や、遺伝性症候群と診断された人は、専門医に相談し、定期的なモニタリングプログラムを検討してもよいでしょう。

よくある質問(FAQ)
Q1. 膵臓がんは、なぜほかのがんより生存率が大幅に低いのですか? 初期症状がほとんどないため、多くの場合、病気がかなり進行してから発見されます。また、効果的なスクリーニング検査がなく、がん組織そのものが治療薬の届きにくい厚い線維性組織を作る特徴もあります。こうした要因が重なり、5年生存率は約13%にとどまっています。
Q2. 家族に膵臓がんの患者がいる場合、私もリスクが高いのでしょうか? 家族歴は代表的な危険因子の一つです。近親者に膵臓がんの患者がいる場合や、BRCA1/2などの遺伝性症候群がある場合は、リスクが高くなる可能性があります。医療機関に相談し、定期的なモニタリングが必要か確認するとよいでしょう。
Q3. 糖尿病があると膵臓がんのリスクは高くなりますか? 5年以上続く2型糖尿病は、膵臓がんの危険因子の一つとされています。一方、特に理由がないのに突然糖尿病を発症したり、血糖値のコントロールが急に難しくなったりした場合は、まれに膵臓がんの初期サインである可能性もあるため、注意深く経過を見ていく必要があります。
Q4. 特定の食品を食べれば膵臓がんを予防できますか? 単一の食品が膵臓がんを確実に予防するという根拠は不足しています。ただし、野菜や果物、全粒穀物を中心とした食事を心がけ、赤身肉や加工肉、砂糖入り飲料、高度に加工された食品を減らす全般的な食習慣が、リスク低下に役立つという研究結果は比較的一貫しています。
Q5. 膵臓がんのスクリーニング検査(健康診断)は受けられますか? 一般の人を対象とした標準的なスクリーニング検査は、まだ確立されていません。ただし、家族歴が濃厚な人や遺伝的な危険因子がある高リスク群は、MRIや超音波内視鏡などを用いた専門的なモニタリングプログラムの対象になることがあります。該当する場合は、医療機関に相談してください。